抄録
【目的】
ヒト薬剤誘発性肝障害(DILI:Drug-induced Liver Injury)は,今日に至るまで安全性懸念による医薬品開発中止ないし市場撤退の主要な原因となっている。ヒト肝臓由来細胞株HepaRG細胞は,サンドイッチ培養することなく通常の培養条件で胆管腔を形成し,BSEPのみならず多数のトランスポーターや薬物代謝酵素を発現することが知られている。本研究では,DILIの胆汁鬱滞型に着目し,胆汁酸存在下でHepaRG細胞を用いて,薬剤性胆汁鬱滞を検出する新規 in vitro 試験系の構築を試みた。
【方法】
㈱ケーエーシーより購入したHepaRG細胞を6 x 104 cells/wellにて96 well plateへ播種し,1週間のプレ培養後,胆汁酸及び薬物を2日間曝露して胆汁鬱滞に伴う細胞毒性を評価した。細胞内放射能濃度は,胆汁酸成分として放射性基質(3H-タウロコール酸,2 µM)を追加し,上記方法に準じて処置後,アルカリ処理して得られた細胞溶解液を液体シンチレーションカウンターにて測定した。
【結果及び考察】
1)胆汁酸条件の検討:胆汁酸の約9割は体循環しており,ヒト血清で認められる胆汁酸12成分を200倍濃度まで細胞培養液に添加後2日間培養したところ,細胞毒性が認められない最大濃度は100倍濃度であった。
2)市販薬物を用いた薬剤性胆汁鬱滞の検討:22種(BSEP阻害の報告有り:20種,同報告無し:2種)の薬物を用いて,100倍濃度の胆汁酸存在下で細胞毒性を評価したところ,シクロスポリンA,リトナビル,トログリタゾン等のBSEP阻害能を有する14種の薬物で有意な細胞毒性が認められた。一方,細胞毒性が認められなかった薬物には,BSEP阻害の報告がなく胆汁鬱滞に伴うDILIの報告がない薬物だけでなく,強いBSEP阻害能を有するがDILIの報告がほとんどない薬物も含まれた。更に,細胞毒性が認められた薬物では,放射性基質を用いた検討から細胞内への胆汁鬱滞が確認できた。
以上,HepaRG細胞を用いた簡便かつ高感度な in vitro 胆汁鬱滞の試験系が構築できた。