抄録
【目的】コンピュータ画像解析法(CASA)は精子数および精子運動能の測定に威力を発揮してきた。筆者らはCASAを利用している間に(1)塗沫や染色の操作を必要とせず無傷の状態の精子の形態を観察できること、(2)画像を容易に保存できること、(3)暗視野の画像のために未成熟精子を肉眼で検出しやすい、などの有用性を見出し毒性学会において、ジブロモクロロプロパン、1-ブロモプロパン、2-ブロモプロパンを試験物質として発表してきた。今回は1,2-ジクロロプロパン(DCP)を試験物質としてCASAの画像による形態解析の利用法について述べることとする。
【方法】12週齢F344雄性ラットに溶媒とともにDCP (250 -1000 mg/kg)を週2回4週間皮下投与した(全8回投与)。対照群には溶媒のオリーブオイルを投与した。1週間の休薬の後、麻酔下で解剖した。5%牛血清アルブミンを含む199培地中で、精巣上体尾部に鋏をいれ、精子を培地中に浮遊させ、CASA(機種はハミルトン社製IVOS)により精子運動能および精子数の測定を行った。また、テトラゾリウム塩(WST-8)法により精子ミトコンドリア代謝能を測定した。さらにCASAにおける拡大画像を保存し、後日呼び出し、短尾精子、未成熟精子、無頭精子、無尾精子、首折精子を目視計測し最終的に正常精子率を求めた。
【結果】正常精子率は全ての投与群において減少を認めた。また、未成熟精子および頭部・尾部離断精子が全ての群で有意に増加した。さらに、短尾精子および首折精子に関して有意差は得られなかった。一方、精子数および精子運動能にはいかなるパラメータにおいても有意差を見いだせなかった。他方、WST-8法により精子代謝能を測定したところ500および1000 mg/kg投与群において有意な低下が認められた。
【考察】DCPの精子への影響は十分に確かめられていなかったが、精子数、精子運動能の影響が認めらないところで精子形態には変化を認められた。本法で解析することは生殖毒性試験をする上で有用と考えらる。