抄録
近年、医薬品開発においても、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を利用した in vitro 安全性評価系によるヒトへの外挿性の高い創薬スクリーニングあるいは作用機序解明の新たな評価ツール構築に期待が高まっている。ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた in vitro 評価系はhERGチャネル阻害以外に起因した催不整脈作用を評価できる可能性がある他、動物を用いた実験の削減をもたらす可能性もあり動物愛護(3R)の観点からも有望である。
抗がん剤領域では、医薬品がもたらす主たる効果(ベネフィット)が延命など生命維持に関わることも多く、薬効を最大限に引き出すため最大耐量(MTD)に近い臨床投与量が設定されることも少なくない。抗がん剤治療では副作用発現とその管理は避けられない課題であり、薬効と副作用のバランスで開発判断が決定されることも多い。催不整脈リスクは医薬品開発において大きなリスク要因の一つであり、抗がん剤領域では催不整脈リスクを適切に評価し、安全な条件で効果が期待できる新薬を治療現場まで届けることが重要となる。
この度我々はヒトiPS由来心筋細胞を用いたマルチスフェロイドイメージング解析を用いて市販の抗がん剤を中心に催不整脈リスクの評価を試みた。iCell®心筋細胞(CDI社)を6wellプレート上で1週間プレ培養し、次にフィブロネクチンでコートした96wellプレートCell-ableTMに細胞を再播種して約1週間培養してスフェロイドを形成させた。その後、チロシンキナーゼ阻害剤(TKIs)などの抗がん剤やその比較としてイオンチャネルの阻害剤などを処理し、Caイメージング用の蛍光指示薬を用いて細胞内Ca変動をイメージング装置(横河電機)にて検出して催不整脈リスクを確認した。また、薬剤処理後に新鮮な培地へと入れ替えて薬剤を除いた場合の影響の変化の確認も試行したので現有データを報告する。