日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-198
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ジフェニルアルシン酸によるラット小脳由来アストロサイトの異常活性化とN-アセチル-L-システインの効果
*根岸 隆之松本 真実金平 朋子吉田 光新垣 梨奈青山 洋平浅井 椋大小嶋 幹也阪口 文香高畑 和明田代 朋子平野 靖史郎吉田 謙二湯川 和典
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抄録

 ジフェニルアルシン酸(DPAA)は茨城県神栖町(現神栖市)において発生した地下水ヒ素汚染事故の主因物質であり、DPAAに汚染された井戸水を生活用水としていた住民に小脳症状を主とする神経症状が見られ、その症状は原因判明後井戸水の使用を中止してもなお続いた。我々はこれまでにDPAAによる神経症状の発症機序解明を目指し研究を行った結果、DPAAは小脳アストロサイトにおいて抗酸化ストレス因子の発現誘導およびグルタチオンの放出に加えてMAPキナーゼの活性化、転写因子の発現誘導、およびサイトカインの分泌誘導といった異常活性化を引き起こすことが明らかとなった。本研究では、この一連の生物学的現象と考えられるアストロサイトの活性化の原因を解明するために酸化ストレスに注目し、DPAAによるアストロサイトの活性化における酸化ストレス増大の有無・程度を検証した。Wistarラット新生仔小脳より調製した培養アストロサイトにDPAAをばく露した。酸化ストレスの関与を検討するためにDPAA(10 µM)と同時に抗酸化剤であるN-アセチルシステイン(NAC)を同時にばく露したところDPAAによるアストロサイトの活性化は抑制された。しかしながら、活性酸素種(ROS)反応性蛍光プローブ(DCFDA)を用いて細胞内のROSを評価したところ、細胞内ROS はDPAAばく露により減少していた。また、NACはDPAAによるグルタチオン合成促進を抑制した。これらの結果より、DPAAはアストロサイトにおいて酸化ストレスを生じさせるが、アストロサイトが有する抗酸化ストレス能により少なくともROSに関してはその影響は表面化しないことが明らかとなった。また、NACはDPAAの影響を抑制しうるが、その機序は細胞内におけるROSの消去やグルタチオン合成促進を介した作用では無いと考えられた。

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