日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-200
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一般演題 ポスター
セレンの細胞毒性発現におけるチオールとの相互作用の多様性と重要性
*植田 康次戸邊 隆夫岡本 誉士典神野 透人
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抄録
 微量のセレン摂取はセレノプロテインを保有する動物の生存に必須である。一方、セレノシステイン合成の必要量を上回る薬理的用量においては、選択的な細胞毒性に基づく抗がん作用や、抗がん剤の副作用低減作用が知られている。がん細胞障害作用の強い化学形である亜セレン酸は、その吸収・代謝過程においてグルタチオンと反応してセレノジグルタチオン(SDG)を生成する。亜セレン酸よりも高い細胞毒性を示すことから、SDGはセレンの細胞障害性の発現において重要な役割を果たしていると考えられる。本研究においてわれわれは、SDGの細胞障害機構の解明を目指した。
 SDGは、細胞障害性を示す濃度域においてDNA酸化損傷をともなうアポトーシスを引き起こしたため、酸化ストレスの関与が示唆された。精製DNA切断活性を指標に反応機序について検討したところ、その障害性はグルタチオンをはじめとするチオール化合物との共存下においてのみ発現し、ヒドロキシルラジカル消去剤により抑制されたが金属イオンは関与しないことから、機構の詳細は不明だがチオール依存的なラジカル生成が予想される。また、不活性な最終代謝産物とされる金属セレンがグルタチオンにより還元され、ラジカル生成を繰り返すことを見いだした。SDGは高い細胞内セレン蓄積性を示したが、その取り込み機構は不明である。グルタチオン結合ヒ素化合物の取り込みへの関与が報告されているアミノ酸トランスポーターxCTは、多種のがん細胞において発現亢進することが知られており、がん選択的なセレンの細胞障害性に関わる可能性がある。また、細胞障害性が比較的短時間で誘導されたことから、細胞内取り込みを起点とした障害作用に加え、細胞表面の膜受容体を介した迅速なシグナル伝達作用も示唆される。これらの可能性について阻害剤や発現制御系を用いて解析・検討していく。
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© 2016 日本毒性学会
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