日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-89
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優秀研究発表 ポスター
東京由来ワルファリン抵抗性クマネズミクローズドコロニーでのワルファリン体内動態の解明
*武田 一貴池中 良徳田中 和之谷川 力中山 翔太水川 葉月石塚 真由美
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抄録
 ワルファリンは抗凝血作用を示す化学物質であり、その薬効はビタミンK依存性血液凝固因子合成に不可欠なビタミンKエポキシド還元酵素 (VKOR)の阻害により発揮される。ワルファリンを含む種々の抗凝血薬は殺鼠剤として広く用いられているが、世界中の都市部でワルファリンに対し抵抗性を持つ野生齧歯類の棲息が確認されており、東京では棲息数の80%を占める地域すら存在する。これら野生齧歯類は重篤な人獣共通感染症を媒介するため、抵抗性獲得機序の解明は急務であるといえる。抵抗性の原因としてワルファリンの標的分子:VKORに遺伝子変異が生じ、それに伴いVKORのワルファリン感受性が低下する事が報告されている。しかしVKOR変異が生体レベルでどの程度抵抗性へ寄与するか不明な点も多くVKOR以外の抵抗性獲得機序が疑われている。そこでVKOR変異以外の要因を探索するため、筆者らは東京由来ワルファリン抵抗性野生クマネズミクローズドコロニーを確立し、その個体群を用いワルファリン経口投与後体内薬物動態解析を行った。その結果、抵抗性群ではワルファリン投与後のAUC(血漿中濃度-時間曲線下面積)、肝臓腎臓中蓄積濃度が感受性群に比べ有意に低く、一方で消失速度を示すクリアランスは有意に高かった。またワルファリンの代謝産物である水酸化ワルファリンの血漿中濃度は、抵抗性群において投与後1時間と非常に迅速に最高濃度に達し(感受性群では投与後6時間前後)、尿中への排泄量も水酸化体の一分子種(4’水酸化体)で有意に増加していた。このワルファリン代謝を担っているシトクロムP450分子種の肝ミクロソーム中タンパク発現量は抵抗性群では有意に高かった。
これらの結果は東京のワルファリン抵抗性個体群ではワルファリンの代謝・排泄能が亢進している事を示唆し、それによる迅速な解毒が抵抗性に寄与しているものと考えられる。
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© 2016 日本毒性学会
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