日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
セッションID: S12-6
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シンポジウム12 エピジェネティック毒性評価に向けたバイオマーカー探索とその関連研究の動向
バイオマーカーとしてのmiRNA -薬の副作用を中心として-
*横井 毅
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抄録
  microRNA(miRNA)は標的となるmRNAに結合し、翻訳抑制またはmRNA分解に働き、標的の発現を負に制御することにより、多くの生命現象に関っている。ヒト遺伝子産物の60%以上がmiRNAによって何らかの調節を受け、二次的な影響を含めるとほぼ全ての遺伝子が影響を受けていると考えられている。また、近年全ての体液中にmiRNAが豊富に存在し、組織や病型特異的なmiRNAが次々と報告されており、非侵襲的または低侵襲的なバイオマーカーとしての関心が高まっている。我々は、組織や血漿中のmiRNAの発現変動が様々な障害や病型を区別でき、高感度な診断バイオマーカーとなることを明らかにし、さらに、障害の機序を明らかにすること目的とした研究を、非臨床動物試験を中心に行っている。ラットにおける様々な標準的な肝障害病型について、miRNAアレイを用いて網羅的に分析することにより、ある程度の予測が可能であるバイオマーカーを提案した。また、我々は様々な薬に起因する特異体質性肝障害モデル動物を作成し、その機序の多くに免疫・炎症因子の関与を報告してきた。ハロタン誘導性肝障害モデル動物では、miR-106bがハロタン投与後1時間程の極めて早い時間に変動し、このmiRNAがStat3の発現に影響し、Th17型免疫応答の活性化を惹起することにより肝障害を増悪させる機序を示した。また、Th2細胞の関与を見いだしたメチマゾール誘導性肝障害は、miR-29b-1-5p及びmiR-449a-5pによるSox4及びLEF1(lymphoid enhancer factor1)の制御によってその機序が説明されることが示した。このように、発現変動するmiRNAによって、副作用の発症機序を早期に予測できる可能性が示された。
  miRNAの発現は、様々な疾患において変動し、薬毒物の暴露、ストレスや環境変化に速やかに高感度な応答を示す。今後は、詳細なメカニズムを定量的に説明できるデータを収集し、創薬や疾病の診断や治療に多機能バイオマーカーとして役立てられていくことが期待されている。講演では薬物性副作用の予測や解明を目指した最近の研究動向も紹介する。
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© 2016 日本毒性学会
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