日本毒性学会学術年会
第43回日本毒性学会学術年会
セッションID: S14-3
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シンポジウム14 適応拡大する毒性オミクス
トランスクリプトーム創薬の実現に向けて
*萩原 正敏
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抄録

染色体や遺伝子に異常があっても、そこから発現するmRNAに影響を与える化合物を見つけ、症状の発現を抑えることは論理的に可能である。我々は、エクソンの選択的使用に応じてGFP/RFP等異なる蛍光タンパク質が発現するスプライシングレポーター技術を開発し、スプライシング制御因子の同定を進めてきた。その独自技術を発展させて、家族性自律神経失調症(Familial Dysautonomia)の原因遺伝子であるIKBKAPのスプライシング異常を可視化するスプライシングレポーターを作製し、家族性自律神経失調症の病態解明を行うとともに、異常スプライシングを是正できる低分子化合物を探索した。我々が見出した化合物は家族性自律神経失調症患者細胞に対して治療効果を認め、遺伝病のトランスクリプトーム創薬が可能であることを証明した。
我々が既に報告しているように、特定のRNA結合蛋白とそのリン酸化酵素の組み合わせが、スプライス部位選択を制御している。それゆえ、TG003のような特異的な蛋白リン酸化酵素阻害剤は特定のmRNAのスプライシングパターンだけを変化させる。最近、我々は、TG003を使ってジストロフィンの変異部位を含むエクソンのスキッピングを促進することで、患者筋芽細胞内でジストロフィン蛋白の発現を亢進させ、デュシェンネ型筋ジストロフィーの薬剤治療が可能であることを示した。
また転写レベルに影響を与えるトランスクリプトーム創薬も試み、我々が開発したCDK9阻害剤FIT039がヘルペスウイルスやパピローマウイルスなどDNAウイルスRNAの転写を特異的に阻害することを見出した。FIT039はウイルス性疣贅治療薬として、京都大学病院で医師主導治験が開始された。こうした経験と実績を基に、トランスクリプトームを標的とした化合物を、臨床薬に向けて開発する上での課題などについて議論する。

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