抄録
1980年代後半から90年代前半に,欧米では抗アレルギー薬のterfenadine等による致死性不整脈であるtorsade de pointes (TdP)誘発による死亡が報告された。これを発端に,2000年代前半にかけてQT延長およびTdPに基づいた医薬品の市場撤退が相次ぎ,催不整脈リスク評価は、薬剤の開発段階における重要な課題と認識されている。TdPの発生とQT間隔延長は高い相関性があることがわかり,サロゲートマーカーであるQT延長リスクを評価するため,非臨床ではS7Bガイドラインが,臨床ではE14ガイドラインが2005年にICHにおいて合意され,各国で施行された。両ガイドライン施行後にQT延長リスクが原因で市場から撤退した薬剤はなく,大きな成果を上げたと言えよう。
よりリスクの少ない化合物を開発するため,例えば,心電図QT間隔延長に関わりの深いhERGチャネルの阻害作用については,創薬の早い段階から検討されるようになった。hERG阻害作用のある化合物は十分に作用を検討される前に開発候補から除外されるため,現在の医薬品でhERG阻害作用を有する薬剤は少ない。催不整脈リスク評価においてQT延長作用やhERG阻害作用の検討は重要であるが,そこに注視するあまり,有用な薬剤を見落としている可能性も指摘されている。また,QT延長作用ではなく,催不整脈作用そのものを効率的に評価することの重要性についても議論され,新たな評価方法について研究がおこなわれてきた。In vitro試験を中心とした非臨床試験を利用した,催不整脈リスク評価に関するComprehensive in Vitro Proarrhythmia Assay (CiPA) Initiativeの活動は,「E14廃止,S7B改訂」を謳い注目を集めている。
本講演では,QT延長リスク評価から催不整脈評価へ,CiPAなど非臨床の取り組みを中心に紹介する。