抄録
げっ歯類の発がん性試験は、マウス、ラットともに農薬の発がん性評価に必要な試験とされてきた。げっ歯類に誘発された腫瘍とその発がん機序のヒトへの外挿性を検証することは、発がん性試験の実施意義を検討するために非常に有用である。そこで、本発表では、食品安全委員会の既公開農薬評価書(281評価書286剤、2015年4月時点)からマウスを用いた発がん性試験で腫瘍の発生が認められた農薬について、発生した腫瘍の種類、発生頻度、発がん用量、発がん臓器・組織で認められた毒性所見、機序試験における所見等をもとに、ヒトへの外挿性の有無を検討した。
ヒトへの外挿性の有無は、以下の基準で判断した。
1.「ヒトへの外挿性なし」とする判断基準:①機序試験でPB様の薬物代謝酵素誘導が認められた場合、②機序試験でPPARαの活性化が示唆された場合、③認められた腫瘍がマウスの自然発生腫瘍であり、対照群にも認められ、投与群でも統計学的に有意に増加したが、その増加程度が小さく、生物学妥当性が示されなかった場合、④マウスの自然発生腫瘍の発生が投与により増加し、機序試験で明らかにマウス特異的であると判断された場合、⑤1000 mg/kg/dayを超える非常に高い用量のみで腫瘍の発生が認められた場合
2.「ヒトに外挿される可能性あり」とする判断基準:①機序試験が実施されていない場合/機序不明の場合、②マウス自然発生腫瘍以外の腫瘍が発生した場合、③細胞障害性など発がん機序のkey eventと考えられる所見が、短期及び発がん性試験で腫瘍発生臓器に認められた場合、④マウス自然発生腫瘍の統計学的有意な増加が認められたが、増加の機序が不明でマウス発がんLOAELとADI根拠となったNOAELとの比が50倍以内であった場合。本発表では、上記条件による解析結果を示し、ヒトに外挿される発がん性検出のためのマウス発がん性試験の有用性について議論したい。