抄録
医薬品開発において、研究開発費は上昇し続けているものの、それが成功確率の向上に寄与していないという問題が近年論じられている。特に化合物最適化段階から早期臨床試験までの間に毒性が原因で開発中止に至るケースは少なくなく、これが成功確率向上に寄与していない1つの要因になっている。このため、医薬品開発に携わる探索毒性研究者にとって「いかに毒性リスクの低い臨床候補化合物をより短期間で取得するか?」が大きな課題となっている。これを実現するためには、できるだけ早期に薬理標的固有ならびに化合物固有の毒性リスクを抽出し、その結果に基づき効率的な毒性回避戦略を立案・実践していくことが重要である。具体的には、ヒット化合物が未取得の段階では、薬効標的分子ならびにその周辺分子に関する生物学的情報を調査することで主にon-target毒性リスクを予測し、ヒット化合物が得られてきた段階では、化学構造に基づくoff-target毒性リスクを予測する(virtual毒性プロファイリング)。また、微量ながらも化合物が合成されれば、標準パッケージ試験だけではなく、virtual毒性プロファイリング情報を考慮した各プロジェクト固有の in vitro毒性評価を行なう(in vitro毒性プロファイリング)。これらvirtual/in vitro毒性プロファイリング結果を考慮し、さらにその検証試験としてin vivo毒性プロファイリング試験を立案し(動物種、投与期間、バイオマーカーを含む評価項目の検討)、実施する。こうしたvirtual/in vitro/in vivo毒性プロファイリング結果に基づき、各プロジェクトにカスタマイズされた効率的な毒性回避戦略を立案し、毒性リスクの低い臨床候補化合物選抜を目指していくことになる。本発表では、これら早期毒性プロファイリングの弊社での試みを紹介する。