抄録
ビスフェノールA (BPA)や代替ビスフェノール類(BPs)は、ポリカーボネート製プラスチックの製造やエポキシ樹脂の原料として様々な用途で利用されてきた。しかしながら、BPsはエストロゲン受容体を介して内分泌攪乱作用を引き起こすことが明らかにされた。さらに、低濃度のBPAが中枢神経系に対する毒性を引き起こすことが明らかにされ、国内外でBPAによるリスクの再評価や規制が実施されてきた。近年の再評価の結果、BPAのヒトに対するリスクは低いと結論されたものの、環境生物に対するリスクについては不明な点が多い。そこで本研究では、ゼブラフィッシュを用いて多様なBPsのエストロゲン様作用を評価した。ゼブラフィッシュ胚にBPsを水性曝露し、全胚におけるシトクロムP450 19A1b (CYP19A1b) mRNA発現量を測定した。また、分子シミュレーションソフトを用いてゼブラフィッシュエストロゲン受容体 (ERs) の3Dホモロジーモデルを構築し、BPsとERsの結合状態をin silicoでシミュレーションした。曝露実験の結果、評価したほぼすべてのBPsが濃度依存的にCYP19A1b mRNA発現を誘導した。BPs誘導性のCYP19A1b発現は、ER拮抗薬との共処置で有意に抑制された。各BPsについて、in silicoシミュレーションにより算出したERαとの相互作用エネルギーは、in vivoにおけるCYP19A1b誘導能(EC50)と有意な正の相関関係を示し、エネルギー値が低い物質ほどEC50も低い値となる傾向が認められた。一方、ERβ1およびERβ2とBPsの相互作用エネルギーとEC50との間には有意な相関関係は認められなかった。本研究の結果は、多様なBPsがin vivoでゼブラフィッシュERを介してCYP19A1bを発現誘導すること、ならびにBPAと同等もしくはBPAよりも高いエストロゲン活性を有する代替BPsが存在することを示している。さらに、in silico シミュレーションによって未試験の化学物質のエストロゲン活性を評価できる可能性が示唆された。