抄録
【目的】我々は、細胞内膜系であるER膜に局在する三量体Gi2タンパクが、ER-Golgi間のタンパク小胞輸送経路であるCOPII小胞輸送を調節することを見出した。折りたたみ異常タンパクがER腔内に蓄積するERストレス時には、異常タンパクをGolgi装置以降へと輸送することを防ぐためにCOPII小胞輸送が抑制されると考えられる。一方で、ERストレスセンサーの一つであるATF6はERストレスを感知するとERからCOPII小胞輸送依存性に輸送され、Golgi装置で活性化され、ERストレス関連遺伝子の転写(unfolded protein response(UPR))を促す。このように、COPII小胞輸送の調節がUPRに必要であることから、本研究ではUPRに、rER膜局在三量体Gi2がどのように関与するのか検討を行った。【方法】ラット腎由来株化細胞であるNRK細胞を用いた。siRNA導入によりGi2ノックダウン細胞を作出した。ERストレス誘導にはtunicamycinを用いた。Gi2、各ERストレスシグナリングタンパクおよびβ-actin各タンパク量はwestern blot法にて検出した。Apoptosis誘導はHoechst33342染色により評価した。COPII小胞輸送の評価には、Brefeldin Aにより拡散しERと癒合したGolgi装置が再構築される際の回復速度を指標とした。【結果】ERストレスによりCOPII小胞輸送は抑制された。ERストレスマーカーGRP78タンパクの発現増加はGi2ノックダウンにより抑制された。ERストレスによるATF6の活性化はGi2ノックダウンにより抑制された。他のERストレスセンサーであるPERKの下流のeIF2α活性化は、Gi2ノックダウンの影響を受けなかったが、さらに下流のCHOP発現誘導は抑制された。一方CHOPの発現が抑制されたものの、apoptosis誘導自体は増加した。【考察】ATF6の活性化が、Gi2ノックダウンにより抑制され、UPRが抑制された。PERK経路が活性化されていたにも関わらずCHOP発現が抑制されたことは、ATF6活性化が抑制された結果と考えられる。ER膜局在三量体Gi2タンパクを介したCOPII小胞輸送の調節が、UPRに必要であることが示唆された。