日本毒性学会学術年会
第44回日本毒性学会学術年会
セッションID: S13-5
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シンポジウム13 「時間毒性学」~古くて新しい毒性学~
概日リズム撹乱による雌性生殖機能の低下
*中村 孝博
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抄録
ヒトを含む哺乳類は目(網膜)で光を受容し、体内時計を地球の自転・公転運動で生み出される周期に合わせている。体内(概日)時計中枢は、脳内視床下部・視交叉上核(SCN)に存在し、光情報を基に約24時間周期のリズムを細胞内で刻む。SCNからは液性因子や神経性連絡を介し末梢時計と呼ばれる各臓器・組織の時計に時刻情報を送り、睡眠覚醒などの活動や生理機能リズムを制御する。SCNに存在する中枢時計と末梢時計に影響する外的環境因子は、食事やストレスなど多くあるが、光は最も強力な同調因子である。それが故、不適切な光暴露が時には“毒”となり得る。
演者らは、女性(雌性)の概日リズム特性についてこれまでに多くの知見を得てきた。女性では、更年期や成熟期の月経周期(性周期)によるホルモンバランスの急激な変化によって、概日リズムの不調(変化)をきたす場合がある。この原因についてこれまでに、「性周期に伴う卵巣ステロイドホルモンの変動は中枢時計に大きな影響を与えないが、末梢時計の針は動かす」ことを見出した。これは、排卵前や月経前のホルモン変動が大きい時期は、体内時計のシステムバランスが崩れやすい状態に陥っていると理解できる。
また、演者らは、時計遺伝子ノックアウトマウスであるCry KOマウスが、早期老齢期(8~12ヶ月齢)に性周期不整や不妊を呈することを見出した。Cry KOマウスは個体固有の概日リズム周期が短縮または、延長することが知られており、Cry KOマウスで認められた性周期不整は、概日リズム周期と明暗環境周期を揃えることで改善し、妊娠率が上昇した。さらに、早期老齢期の野生型マウスを“社会的時差ボケ”明暗条件下におくと性周期不整を呈した。これらの結果は、早期に発症する性周期不整・不妊等の生殖機能の加齢変化は、概日時計の機能に強く依存し、環境の光サイクルが“薬”にも “毒”にもなり得ることを示唆している。
本講演では、雌性の概日リズム特性について触れ、光環境サイクルが生殖機能に及ぼす影響とそのメカニズムについて解説する。
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© 2017 日本毒性学会
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