抄録
企業及び研究機関におけるトキシコロジストの主たる業務は、「毒性試験を立案・実施し、得られたデータからリスク評価をすること」である。最適な毒性試験計画を立案し、信頼性のある毒性データを取得するためには、トキシコロジストは幅広い毒性学の知識と高度な実験技術を保有し、試験ガイドラインに精通している必要がある。さらに、データに基づくリスク評価については新たな医薬・農薬・化学物質の開発判断/許認可に関わることから、極めて重要であり、トキシコロジストは毒性学に加え、薬学、獣医学、生物学、化学及びレギュラトリーサイエンスに基づいた総合判断力が必要である。一方、人類社会の持続的発展のためには、新たな機能・物性を有する医薬・農薬・化学物質の創製が必須であり、それらが有する未知の毒性に対して的確にリスク評価する必要がある。そのためには専門性の深化と多様化に対応できる質の高いトキシコロジストの育成が必要不可欠である。
日本毒性学会では毒性領域の研究の進歩発展を図ることを目的とし、学術集会の開催、学会誌の発行及びトキシコロジストの教育及び資格認定の事業を行っている。特にトキシコロジストの教育・育成は学会としての重要な責務であり、教育委員会を中心に以下の施策を講じている。①トキシコロジーに関する基礎知識を幅広く学習するための「基礎教育講習会」の開催及び教科書「トキシコロジー」発刊、②トキシコロジストとしての知識をブラッシュアップするための「生涯教育講習会」の開催、③トキシコロジストに研鑽の機会を提供するためのSOT教育コース派遣、④トキシコロジストの質的向上と一定レベルを担保するための学会認定専門家「認定トキシコロジスト」資格制度運用。
本発表では毒性試験におけるリスク評価の難しさの実例と認定トキシコロジストの重要性を切り口に、日本毒性学会におけるトキシコロジストの教育・育成のための取り組みについて述べる。