主催: 日本毒性学会
会議名: 第44回日本毒性学会学術年会
開催地: パシフィコ横浜
開催日: 2017/07/10 - 2017/07/12
医薬開発品の遺伝毒性リスクは通常,複数の遺伝毒性試験を組み合わせる証拠の重み付け(weight of evidence, WoE)やDNA損傷誘発作用や染色体の異数性誘発作用など作用の様式(mode of action, MoA)を考慮して評価される.具体的には,ほ乳動物培養細胞を用いるin vitro遺伝毒性試験で陽性でも2種の異なる組織におけるin vivo遺伝毒性試験で陰性であればヒトでの危険性は低いといった評価である.しかしながら,医薬開発品の特性など考慮すべき事項がある場合はWoEやMoAによる評価のみでは不十分なケースがある.
ここでは,脳梗塞治療薬として開発中のMP-124の事例を紹介する.MP-124の薬理作用はPoly (ADP-ribose) polymerase (PARP)阻害により発現するが,PARPはDNA損傷を修復する際に重要な役割をもつ酵素であるため,探索安全性評価の段階から慎重な遺伝毒性リスクの評価が必要と考えていた.
結果的にMP-124はin vitro染色体異常試験およびin vivo小核試験(持続静脈内投与の条件下のみ)で陽性であったが,想定される遺伝毒性誘発メカニズムに基づき詳細な検討・解析を行った結果,一定の投薬量以下であればヒトに対する遺伝毒性リスクは無いものと推定した.このように,医薬品開発においては遺伝毒性試験の結果のみならず,必要に応じて遺伝毒性誘発メカニズムを考慮してヒトのリスクを予測することが大切である.