日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
セッションID: O-38
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一般演題 口演
毒性試験ガイドラインへの提言:生態毒性試験に用いるための系統維持された試験生物の確立
*遠山 千春鑪迫 典久
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抄録

 人の健康と生態系への化学物質の悪影響を未然に防ぐために、経済協力開発機構(OECD)により国際標準として毒性試験指針(Test Guideline; TG)が作られている。わが国では化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)や農薬取締法などで、この指針と同様の試験方法が採用されている。それぞれ本来の目的を達成する上で限定的ではあるが有用な役割を果たしてきた。しかし、毒性学の原理・原則に照らすと、このTGには改善すべき根本的な問題がある。今回の発表では、試験データの再現性を担保し信頼性を確保する上で不可欠な試験対象の生物種・系統の問題点を提示する。

 TGのほ乳類試験ではラットが第一選択の動物種とされているが系統指定はないため、用いる系統により無毒性量(NOAEL)は大きく変わりうる。系統維持がなされ遺伝形質が制御されてきたラットやマウスを用いるTGでもこうした問題がある。これに比して、生態毒性試験では生物種の選択に関して解決すべき基本問題がある。生態毒性試験では、水生生物として魚類(ヒメダカOryzias latipes)、甲殻類Daphnia magna、藻類緑藻(Pseudokirchneriella subcapitata)、底生生物としてユスリカ(Chironomus yoshimatsui)などが用いられる。例えば、TGにおけるメダカの選択に際する記載は体長への言及にとどまる。また、生態毒性試験でも、試験生物種や系統の違いにより化学物質への感受性が異なり、無影響濃度(NOEC)に大きく影響する場合がある。例えば、野外のユスリカはほとんどが農薬耐性を獲得しているが、国立環境研究所(NIES)で確立した系統は農薬耐性が無く感受性が100倍以上高い。TGにおける生態毒性試験を国際的に検討するに際しては、継代飼育によって遺伝形質を制御した試験生物の確立が肝要である。

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