日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
セッションID: O-5
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一般演題 口演
新規肝細胞維持培地による初代肝細胞およびヒトiPS細胞由来肝細胞の機能向上効果
*戸坂 泰弘榎 竜嗣Annika ASPLUNDBenjamin ULFENBORGJane SYNNERGRENBarbara KüPPERS-MUNTHER峰野 純一
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抄録

現在、医薬品開発における肝毒性評価にはヒト初代肝細胞が用いられているが、ロット間のばらつきや培養中の機能低下等が問題であると考えられている。ヒト初代肝細胞の代替として肝株化細胞も使用されているが、個人差を反映していないため、肝毒性のリスクを正確に予測することは困難である。これらの問題点を解決する手段として、ヒトiPS細胞由来肝細胞の応用が期待されている。

我々はヒトiPS細胞からの高効率な肝細胞誘導法を開発し、20株以上のiPS細胞から高純度の肝細胞を分化誘導できることを確認した。しかし、他のヒトiPS細胞由来肝細胞と同様に、成熟化が不十分であり、機能性が低いことが課題であった。今回我々は新たに肝細胞維持培地を開発し、分化誘導時あるいは誘導後の維持培養に用いることで、これらの問題を解決できるかどうか検証を行った。

ヒトiPS細胞由来肝細胞を新培地を用いて分化誘導したところ、アルブミンおよび尿素が持続的に産生されることが確認できた。遺伝子発現解析では、アルブミンの他、薬物代謝酵素および糖や脂質代謝に関連する遺伝子の発現も初代肝細胞と同等であることが確認できた。さらに、誘導した肝細胞ではインスリン濃度依存的なAKTのリン酸化が確認されたことから、インスリンシグナルが細胞内で活性化されていることが示唆された。

次に新培地を初代肝細胞の培養に応用できるかについても検証を行ったところ、従来の培地では細胞解凍後に短期間で生存率や機能性が著しく低下したが、新培地では4週間もの長期間維持培養が可能であり、培養後も高い機能性を維持できていることが確認できた。

以上の結果から、我々が新たに開発した肝細胞維持培地により、ヒトiPS細胞由来肝細胞の機能性が改善されただけでなく、初代肝細胞の長期維持培養にも有効であることが示唆された。今後の創薬研究や薬物代謝研究において有用な培地であると考えている。

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