ヒト多能性幹細胞(hPSCs)や間葉系幹細胞(MSC)は、再生医療における細胞治療、薬効・毒性評価など創薬研究のスクリーニングツールとしての利用など産業面にも広く利用され始めている。しかし、ヒト幹細胞は、様々な理由で細胞の増殖、分化能、遺伝子発現は著しく変化する1,2)。一方、同じ結果を再現できないことも多い。こういった現象が発生する理由の一つに、実験者や研究施設が変わることによる細胞の品質変動が挙げられる。さらに、その品質変動を誘導する要因として培養技術が考えられる。幹細胞の使用にあたっては細胞の品質評価が必要となるが、従来の評価方法のほとんどは細胞を破壊して行う侵襲的検査であった。我々は、生きたhPSCsの培養経過を時系列で取得できる細胞培養観察装置のイメージング技術を利用した非侵襲的細胞倍加速度測定法を開発した3)。さらにMSCの倍加速度も測定できることを確認した。この手法を用いて、ピペッティング操作の誤りにより細胞の撒きムラが生じると、細胞増殖速度など品質に影響を与えることを確認した。培養細胞をリアルタイムで評価することにより、培養技術を客観的に評価することができ、技術者の育成にも利用できる。これまでに、ヒト幹細胞研究や細胞培養を専門とする有識者とともに連携し、「細胞培養の基本原則」をまとめ4)、さらに、「培養細胞の位相差顕微鏡観察の基本原則」、また、「ヒト多能性幹細胞培養の留意点」についても文書作成中である。現状では熟練した培養技術を持つ作業者や研究者が不足しており、培養細胞の取り扱いのノウハウなどの情報提供や技術者の育成が急務である。
1) Stem Cells Dev. 25:1884- (2016). 2) Scientific reports. 2016;6:34009. doi:10.1038/srep34009. 3) Stem Cells Transl Med. 4:720-(2015). 4) Tiss Cult Res Comun. 36:13- (2017).