魚類の精巣は哺乳類と同様、精子形成と雄性ホルモンなどの分泌を行う組織であり、形態学的には生殖細胞(精原細胞A、精原細胞B、1次精母細胞、2次精母細胞、精細胞及び精子)、セルトリ細胞及び間質細胞より構成される。しかし、魚類における精子形成プロセスは哺乳類と大きく異なり、精原細胞はセルトリ細胞内に1ケずつ包まれ、精子包嚢を形成し、包嚢内で完全に同調してクローナルな分裂、分化を繰り返して精子を形成する。さらに、精巣の正常組織形態は魚種によって異なり、非局在性吻合管状型(ニジマス、サケ)及び非局在性小葉型(コイ、ファットヘッドミノー、ゼブラフィッシュ)及び局在性小葉型(メダカ、グッピー)の3つに区分される。また、魚種によっては性転換することで精巣組織そのものが卵巣組織に変わってしまうものもあり、魚類の精巣毒性を評価する上で、魚種ごとに精巣の正常構造を理解しておく必要がある。
魚類の精巣への影響は内分泌かく乱物質について多くの報告があり、OECDでは環境中の内分泌かく乱物質の検出系として、メダカを用いた魚類21日間スクリーニング試験(OECD TG230)及び魚類短期繁殖試験(OECD TG229)を制定している。特に、OECDの内分泌かく乱化学物質の試験と評価のための概念的枠組みでは魚類の生殖腺の病理学的検査は有用であるとされており、魚類短期繁殖試験では被験物質を21日間曝露した魚についてビテロジェニン測定と生殖腺の病理組織学的検査を検査項目として定めている。さらに、OECDガイダンス文書(OECD Guidance Document for the Diagnosis of Endocrine-Related Histopathology of Fish Gonads)では、魚類生殖腺の病理組織学的検査方法を示している。さらに、内分泌かく乱物質により誘発される組織学的変化として、精巣では精原細胞割合増加、精巣卵、精巣変性、ライディッヒ細胞過形成、精原細胞割合減少、精母細胞/精細胞比率変化、間質線維化及び精上皮萎縮/低形成などの診断基準についても定めている。本発表では魚類の精巣の正常構造と、これら内分泌かく乱物質により誘発される病変について説明する。