日本毒性学会学術年会
第45回日本毒性学会学術年会
セッションID: S20-1
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シンポジウム20
性差医学・医療 ~その背景と実践~
*片井 みゆき
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抄録

 性差医学・医療は疾患の背景にある性差を考慮した新しい医学・医療です。生殖器以外の男女共通臓器の疾患も含め、背景にある性差に注目し診断、治療、予防措置へ反映するもので、1980年代から欧米を中心に提唱されました。生物学的な性差sex differenceと社会的な性差gender differenceの両方を考慮します。

 現在は、診断や治療法において臨床試験に基づいたエビデンスが求められますが、1977年以降は各国で妊娠の可能性がある女性が臨床試験の対象から除外されました。これは、妊婦へ投与された薬が出生児に悪影響を及ぼした1960年代のサリドマイド事件等の薬禍の再発防止のために取られた重要な措置でしたが、結果として、1977年以降は女性生殖器系や乳腺悪性腫瘍以外の生理的・医学的研究では、主に男性から得られた臨床試験データを女性に適用せざるをえなくなりました。しかし次第にその問題点や矛盾点が明らかになり、1990年以降、性差に関する追加研究や大規模臨床試験が行われた結果、性差は予想以上に大きく無視しきれるものではないことがわかった次第です。

 不足している女性のデータを補完するため、まずは女性における性差医療から普及しました。欧米では大規模な女性医療センターが設立され、日本ではより小規模な女性専門外来が各地にできるという形での展開となりました。2001年に日本初の女性専用外来が誕生し、2003年頃から全国の基幹病院を中心に開設が相次ぎ、2004年には180カ所、2006年には400カ所以上と急速な勢いで普及しました。2007年には日本初の性差医療部が東京女子医大東医療センターに開設され、女性の多彩な愁訴に対応するため様々な専門分野の女性医師12~13人が連携し女性専門外来を行って来ました。

 アカデミックには2004年から性差医療医学研究会、2008年から日本性差医学・医療学会が設立され、基礎から臨床各分野の研究者や医師が所属し2017年には国際性差医学学会が仙台で開催されました。特に循環器領域での性差研究が国内外で進んでいます。

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