主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
2015年に「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals, SDGs)が国連サミットで採択された。採択された17のSDGsの中には、安全な水の供給に関する目標が選出されており、水環境の保全・改善によるヒトの疾病予防、健康保持・増進は、重要な課題であると認識されている。また、我々の研究グループでは、各種金属を基材とした金属複合水酸化物による吸着処理を基盤とした新規有害物質除去技術の開発、および水系環境中に存在する有害物質との相互作用の解明に関する研究を実施している。そこで、本研究では新規開発に成功したNi-Al およびMg-Feを基材とした金属複合水酸化物の物理化学的特性評価、そして水系環境中に存在する有害物質との相互作用について検討した。
まず、NiおよびAlの含有モル比の違いによる金属複合水酸化物の結晶構造および表面特性について評価した。その結果、Alの含有モル比の増大に伴い、結晶構造は非晶質となり、比表面積および表面水酸基量が高値を示すことを明らかとした。IARCによる発がん性の分類でGroup 1に分類されており、ヒトに対する毒性発現が懸念されている6価クロムとの相互作用を評価した結果、NiおよびAlの含有モル比が1:2および1:1の金属複合水酸化物が6価クロムに対して優れた吸着能を示すことが明らかとなった。相互作用の解明のために、吸着前後における結合エネルギーおよび元素分布を測定した。その結果、吸着前には検出されなかったクロムの結合エネルギーの測定に成功し、金属複合水酸化物の表面にクロム原子が存在することを明らかとした。さらに、金属複合水酸化物のゲスト層に保持されている硫酸イオン(交換性イオン)とのイオン交換能を評価した結果、6価クロムの吸着量と硫酸イオンの溶出量に正の相関関係が認められ、Ni-Al を基材とした金属複合水酸化物による6価クロムとの相互作用には、金属複合水酸化物の基材金属によって制御される物理化学的特性およびそこに保持されている交換性イオンが重要な役割を果たしていることを明らかとした。
また、発がん性およびメトヘモグロビン血症を引き起こす原因物質である無機態窒素とMg-Feを基材とした金属複合水酸化物との相互作用についても評価した。Mg-Alを基材とした金属複合水酸化物と比較し、Mg-Feを基材とした金属複合水酸化物は、無機態窒素である亜硝酸イオンおよび硝酸イオンに対して、選択的吸着能を有していることを明らかとした。これらは、基材金属の違いによる金属複合水酸化物の構造的な空間の制御に起因していると考えられる。
本研究より、Ni-Al およびMg-Feを基材とした新規の金属複合水酸化物の創成に成功し、水系環境中に存在する有害物質との相互作用に関する基礎的知見を得ることに成功した。今後,これらの研究成果が水系環境の保全・改善の一助となり、ヒトの疾病予防、健康保持・増進につながることを期待する。