主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
ジフェニルアルシン酸(DPAA)は5価の有機ヒ素化合物で、2003年茨城県神栖市で発生した地下水ヒ素汚染事故の主要な原因物質である。この地下水を使用した住民は小脳症状を主徴とする神経症状を発症した。我々はこれまでに、ラット小脳由来培養正常アストロサイト(NRA)を用いてDPAAの影響の評価を行い、10μM DPAA 96時間ばく露は、一過性の細胞増殖に続く細胞死の誘導、MAPキナーゼのリン酸化、転写因子のリン酸化/発現誘導、酸化ストレス応答因子の発現誘導、およびグルタチオンの分泌亢進等の細胞生物学的異常活性化を引き起こすことを明らかにした。また、ヒトにおけるDPAAのリスク評価を念頭に、ヒト小脳由来培養正常アストロサイト(NHA)におけるDPAAの濃度依存的な影響を評価したところ、DPAA 96時間ばく露において、10μMでは影響はみられなかったものの、50μMではNRAと同様の異常活性化を引き起こすことを報告した。本研究では、NHAにおける10μM DPAAを96時間を超えて長時間ばく露した際の影響を評価した。NRAはラットより小脳を摘出後、継代を繰り返すことでNRAからなる培養系を確立し、無血清培養液(サプリメント含有DMEM/F-12)中にて10μM DPAAに96時間ばく露した。NHAは購入後、専用培養液(AGM)で増殖させた後、無血清培養液中にて10μM DPAAを96、144、192、240、または288時間ばく露した。NHAにおいては、DPAA 96‐240時間ばく露ではほとんど影響はみられなかったものの、288時間ばく露により程度は低いながらNRAとほぼ同様の異常活性化がみられた。これらの結果より、NHAはばく露時間という観点からみてもDPAAに対する抵抗性がNRAに比べて高いが、同様の異常活性化を示すことが明らかとなった。