主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
【背景・目的】消化管の粘膜上皮細胞障害などによって誘発される消化管毒性は,殺細胞性抗がん剤に共通の有害事象であり,多くの薬剤で用量制限因子の一つになっている.開発化合物の選択並びに副作用対策の点から,ヒトにおける消化管毒性評価は極めて重要である.しかし,消化管上皮細胞の初代培養は非常に難しかったことから,これまでに生理学的に模倣した安定的かつ汎用的に消化管毒性を評価する細胞実験系は確立されていなかった.近年,腸管上皮の幹細胞やiPS細胞から生体組織に近い状態で培養維持が可能な腸管オルガノイド培養法が確立された.今回,マウス小腸及びヒトiPS細胞から作製された腸管オルガノイドを用いて,殺細胞性抗がん剤のin vitro消化管毒性評価を試みた.
【方法】マウス腸管オルガノイドは,C57BL/6マウスの小腸から作製されたものを用い,ヒト腸管オルガノイドは,ヒトiPS細胞から分化作製されたものを用いた.評価化合物には,イリノテカンの活性本体SN-38及びシスプラチンを用いた.播種後3日目の腸管オルガノイドに各化合物を種々の濃度で曝露し,経時的(2,6,24,48,72時間)に培養を行った後にLDH漏出を指標とした細胞障害性の評価を行った.
【結果】シスプラチン及びSN-38では,短時間曝露で障害作用は示さず,曝露時間が長くなるに従って顕著な障害作用を示した.ヒトとマウスの障害反応性の比較では,シスプラチンではヒトとマウスの腸管オルガノイドでほぼ同様であったが,SN-38はヒト腸管オルガノイドで強い障害作用を示し,感受性に種差が見られた.
【結論】今回検討した評価方法は,これまで容易ではなかった消化管毒性に対する殺細胞性抗がん剤の障害作用及び障害感受性種差を評価するin vitro試験系として有用であると考えられた.