日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-26S
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老齢ラット黒質AMPA受容体活性化は細胞内Zn2+毒性によるパーキンソン症候群を悪化させる
*片平 実沙佐伯 奈々西尾 隆佑竹内 梓紗森岡 洋貴玉野 春南武田 厚司
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抄録

パーキンソン病モデル作製に用いられる活性酸素産生物質の6-hydroxydopamine(6-OHDA)をラット黒質に投与すると、黒質ドパミン作動性神経が変性・脱落し、運動障害を惹起する。6-OHDAによる活性酸素産生は、黒質細胞外グルタミン酸濃度を増加させ、イオン透過型グルタミン酸受容体のAMPA受容体を活性化させる。この受容体を介した細胞外Zn2+の速やかな流入はラットにパーキンソン病を発症させる。黒質ドパミン作動性神経のAMPA受容体を直接活性化した場合にも、細胞外Zn2+流入を介した細胞内Zn2+毒性により、パーキンソン病様運動障害を誘発すると考えられる。本研究では、成熟および老齢ラットを用いこれを検証した。

 AMPAを黒質に投与し、投与2週間後に運動障害の指標としてアポモルフィン皮下投与による回転運動を観察した。成熟ラット(15-25週齢)の回転運動は、溶媒投与群に比べ顕著に増加し、AMPAにより運動障害が惹起された。この運動障害は、細胞内Zn2+キレーターのZnAF-2DAまたはTPENの黒質同時投与により抑制された。黒質ドパミン作動性神経の変性をチロシン水酸化酵素(TH)の免疫染色により評価したところ、黒質TH蛍光強度はAMPA投与により顕著に減少し、ドパミン作動性神経の脱落が観察されたが、この脱落はZnAF-2DAまたはTPENの同時投与により改善された。また、AMPA黒質投与10分後の細胞内Zn2+レベルは溶媒投与群に比べ顕著に増加した。この増加はTPENの同時投与により阻害された。さらに、老齢ラット(>60週齢)では、AMPA誘発性の黒質細胞内Zn2+レベルの増加が増強され、ドパミン作動性神経の脱落も増大した。

 黒質AMPA受容体活性化は、細胞内Zn2+を急速に増加させることで黒質ドパミン作動性神経の脱落を誘導し運動障害を誘発すること、この細胞内Zn2+毒性を介した神経脱落は加齢に伴い増大することが示された。黒質Ca2+透過型AMPA受容体はパーキンソン病発症の予防・治療法の有望な標的となると考えられる。

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