主催: 日本毒性学会
会議名: 第47回日本毒性学会学術年会
開催日: 2020 -
【背景】我々は海馬神経新生が発達神経毒性の高感度エンドポイントであることを報告してきた。エタノール (EtOH) は妊婦のアルコール摂取により子供の中枢神経発達障害を含む胎児性アルコールスペクトラム症候群のリスクを高めることが知られている。げっ歯類モデルにおいても、発達期曝露により記憶・認知障害や脳の発達異常を起こすことが知られているが、病態出現の機序に関する詳細は明らかではない。本研究ではラットにEtOHを発達期曝露し、海馬歯状回 (DG) で生後に始まる神経新生への影響を検討した。
【方法】ラットにEtOHを0, 10, 12.5% (v/v) の濃度で妊娠6日目から分娩後21日目 (PND 21) まで飲水投与した。母動物はPND 21に、児動物はPND 21とPND 77に安楽死させ、脳重量を測定した。雄児動物についてDGの顆粒細胞層下帯 (SGZ)/顆粒細胞層 (GCL) における神経新生の各段階の細胞数とシナプス可塑性関連の最初期遺伝子産物陽性顆粒細胞数、及び歯状回門における各種のGABA性介在ニューロンの分布を免疫組織化学的に検討した。
【結果】母動物及び児動物の絶対脳重量は変動しなかった。神経新生ではPND 21において両用量群で顆粒細胞系譜のうちSOX2陽性細胞が増加し、高用量群でdoublecortin陽性細胞が減少、細胞増殖マーカーのPCNA陽性細胞が増加した。GABA性介在ニューロンでは高用量群でsomatostatin及びcalretinin陽性細胞が増加し、reelin陽性細胞が減少傾向を示した。また、PND 77では高用量群でシナプス可塑性に関連するc-FOS陽性顆粒細胞が減少した。
【考察】EtOHのラット発達期曝露は、高用量影響として曝露終了時にtype-2a神経前駆細胞の増殖を促し、それにはcalretinin陽性介在ニューロンシグナルによる神経新生増強の関与が示唆された。また未成熟顆粒細胞への分化阻害も認め、それにはreelinシグナルの減少の関与が示唆された。また、遅発影響としてシナプス可塑性の低下が示唆された。