日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: S13-4
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シンポジウム13
動物実験の社会的なコンセンサスへの取り組み
*板東 武彦
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抄録

人類の健康は過去の絶えざる生命科学研究の努力により支えられており、現在も科学により解決すべき課題は山積されている。その中で、生命科学研究の重要な鍵の1つは動物実験であり、その充実と継続は必須である。人類が動植物を利用・消費し生き延びてきたことは周知の事実である。しかし、産業構造の変化により都市生活が主流となり、動植物を利用する現場を知らない人々が増えたこともあり、動物倫理の考え方にも変化が生じた。また、科学研究成果の活用が社会的影響力を強めるとともに、その副作用や不適正利用に対する批判も生まれた。遺伝子組換え生物の利用など国民の賛否を分断する事態が生じ、その過程で何か隠された事実があるのではないかという科学研究に対する国民の不信頼感も生じた。

このような状況のもとで、国民の共感を得ながら動物実験を含む生命科学研究を安定的に行うためには、科学者側にも課題が求められる。その課題としては、研究者自身が実験動物に対する人道的取り扱いや動物福祉に配慮することが第一に求められるが、個人の努力では解決できない課題も多い。このため、研究者の属する研究機関が責任ある研究管理を社会に対して保証するとともに、動物実験研究に対する社会の理解を増進するための情報発信を行うことが求められる。情報発信のためには、自身の基本姿勢をはじめ、よく練った戦略や方法の検討が必要であり、研究機関内部でのコンセンサスが必要である。また研究成果が人類の健康・福祉に不可欠なことを、実例を通じて訴えることも大切である。ヨーロッパでは既にこのような対話の試みが行われ、それを基礎に、「開かれた生命科学研究の構築」に向けた努力も行われている。そのような団体の1つであるEARAの発行したマニュアルを軸に戦略、基本姿勢や方法論を紹介し、研究機関の情報発信について考える一助としたい。

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