日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: S4-4
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シンポジウム4
ヒト生体液におけるポリスルフィドプールの発見とその生理学的意義
*異島 優池田 真由美石田 竜弘
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抄録

質量分析を駆使した解析や蛍光プローブの開発など測定技術の進歩とともに、ポリスルフィドが抗酸化作用を有することやタンパクの機能に関与することが続々と明らかにされてきている。一方で、in vitroの系で血清にNa2Sを添加すると血清タンパク質に結合してスルフィドとして観察されなくなることから、血清タンパク質に硫黄代謝機構があることが示唆されていた。しかしながら、血清中は細胞内と異なり酸化的環境にあることや酸化型ポリスルフィドの定量法の欠如がボトルネックとなり、血清やその他の生体液中のポリスルフィドの存在に関する報告は非常に少ない。そこで我々は、血清中の酸化型ポリスルフィドの包括的理解を深めるべく、新規酸化型ポリスルフィド測定法を開発し、本測定法にて生体液中のポリスルフィドを検出し、その生理学的意義の解明を試みた。この測定系により血清や精液などの生体液中にポリスルフィドが存在することや、血中ではヒト血清アルブミン(HSA)が酸化型ポリスルフィドを高濃度に保持していることが明らかとなった。大変興味深いことに、HSAは酸化ストレスを受けると自身の酸化型ポリスルフィドを還元型ポリスルフィドに変換し、一過的に抗酸化作用を増大させる反応機構を有することが明らかとなった。本酸化ストレス応答は、酸化ストレス関連疾患である糖尿病性腎症や急性腎障害時の臨床血清検体においても観察されたことから、血中のポリスルフィド状態をモニタリングすることにより血清の酸化状態をより詳細に把握できる可能性が明らかとなった。これらの知見は、硫黄代謝機構を兼ね備えた血清タンパク質の機能制御の解明や酸化ストレス疾患の予防・診断マーカーの開発に繋がるものである。本シンポジウムでは、上述の血中でのポリスルフィドプール以外の生体液に関する最新知見に関しても、合わせて報告したい。

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