日本毒性学会学術年会
第47回日本毒性学会学術年会
セッションID: W6-4
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ワークショップ 6
メチル水銀による小胞体ストレスを介した神経毒性機構
*上原 孝
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抄録

私たちはこれまでにメチル水銀(MeHg)による神経毒性機構を解析してきた.MeHgの標的分子を探索し,新生タンパク質成熟機構に必須であるタンパク質ジスルフィド異性化酵素(PDI)の同定に成功した.MeHgはPDI活性中心のCys残基に共有結合し, S-水銀化と呼ばれる不可逆的な酸化修飾を引き起こした. この修飾により, PDIは機能不全に陥り,小胞体内腔に変性タンパク質を蓄積することで小胞体ストレスを介した神経細胞死が惹起されることを明らかにした.この際,MeHgは小胞体ストレス応答( unfolded protein response (UPR))活性化を誘導するものの,ストレスセンサー分子にも一部作用することで,シグナルが調節されていることがわかった.これらの結果から,細胞レベルにおいてMeHgは小胞体に作用し,特にタンパク質成熟機構ならびに小胞体ストレスセンサーに作用することで神経毒性を発揮することが示唆された.

さらに,これらの応答が動物レベルでも観察されるか否か検討した.小胞体ストレス可視化マウスを用いて調べたところ,MeHg単回あるいは長期投与のいずれによっても脳内で小胞体ストレスシグナルが認められた.興味深いことに,このシグナルは神経特異的であり,かつ,神経障害よりも先んじて検出された.また,部位特異性も認められたことより,MeHg毒性を解析する上で重要なツールとなる可能性が示された.

以上より,MeHgは脳内神経細胞特異的に影響し,少なくとも一部は小胞体に作用することで機能不全を惹起し,細胞障害を招く可能性が推定された.現在,さらに詳細な解析を行なっているところであり,これらについて紹介する予定である.

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