本研究は炎症毒性のないアジュバントを開発し、安全性に優れたワクチンへの適用を目指す。ワクチンは予防用・治療用を問わず、基本的に樹状細胞の活性化物質(アジュバント)と抗原を含む。これによってTリンパ球の活性化を誘起し、樹状細胞依存性の抗体産生にも寄与する。抗がん免疫療法の場合、樹状細胞の活性化無しに抗原ペプチドを投与するワクチン(ペプチドワクチン)の試みが長年がん免疫の主流であったが全て失敗に終わっている。現在も安全な樹状細胞アジュバントは認可されていない。一方、微生物、特にウイルスは抗原とアジュバントを本来含むので、弱毒・不活化ワクチンが予防ワクチンの主流であった。この場合、獲得免疫は起動するが、副反応としての炎症(発熱や頭痛、発赤など)は不可避であった。微生物のアジュバントは炎症(自然免疫活性化によるサイトカイン血症)に付随して樹状細胞を活性化するので、炎症と免疫活性化は不可分であるという考え方が許容されてきた。我々は樹状細胞だけを刺激する合成核酸ARNAXを開発し、樹状細胞による免疫活性化は炎症と独立して誘導できることを証明した。KOマウス実験からARNAXは樹状細胞のToll-like receptor 3 (TLR3)を特異標的とする核酸であることが証明された。炎症無しに免疫を活性化できるアジュバントを開発すれば安全な予防ワクチンの確立に貢献できる。ARNAXはAlum(アラム) やTLR2リガンドとの比較から優位性が立証され、量産ラインの確立を経て、現在非臨床POC を取得しつつある。