日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: IL
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年会長招待講演
iPS細胞を用いた角膜移植
*西田 幸二
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抄録

 外界からの情報の80%以上を視覚から得ている我々人間にとって、視覚の維持に資する眼研究は極めて重要である。特に、超高齢化により失明者が世界的に増加していく社会において、失明性の眼疾患の克服を目指した研究の重要性は増している。視覚系の中で、眼の最も前方に位置している透明組織である角膜は、前方から角膜上皮、角膜実質、角膜内皮という3層からなっており、3層すべての健常に維持されることにより、眼の防御系あるいは光の屈折系として、視覚の維持に極めて重要な役割を担っている。そして、外傷や炎症性疾患、遺伝性疾患など様々な要因により、角膜が混濁すると機能不全となり、失明に至る。角膜混濁に対する治療としては、角膜移植術が行われてきた。しかし、多くの国で提供眼球不足が大きな問題となっている。また、術後に生じる拒絶反応の克服が大きな課題となっている。このような現在の移植医療が抱える問題点を抜本的に解決するため、我々はiPS細胞を用いた再生医療の開発を進めてきた。

 iPS細胞からいかに移植に使用できる角膜組織を製造するか。その基盤技術として、我々はヒトiPS細胞から眼全体の発生を時空間的に再現させる(2次元)眼オルガノイド系の開発に世界で初めて成功した(Nature 2016)。この培養系は眼の発生を再現させた系で、得られる同心円状の帯状構造(self-formed ectodermal autonomous multi-zone:SEAMと命名)には眼全体(角膜や水晶体などの前眼部から網膜や網膜色素上皮などの後眼部まで)の原基の細胞が規則正しい配行で誘導される。このSEAM法を用いて機能するヒト角膜上皮組織(iPS細胞由来角膜上皮細胞シート)を製造する技術を開発し、SOPを確立した。そして、2019年にiPS細胞から作製した角膜上皮細胞シート移植のFirst-in-human臨床研究を開始した。

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