【目的】内分泌かく乱物質は、極微量で我々の体内に数種類存在するホルモン等の生理活性物質の働きを模倣あるいは阻害する。内分泌かく乱作用のIn vitro試験系として出芽酵母を用いたレポーター遺伝子アッセイが挙げられる。従来の出芽酵母は化学物質の細胞膜浸透性が低く、哺乳動物細胞を用いた評価系に比べ内分泌かく乱作用の検出力が低い問題点があったが、我々はこれまでに化合物の細胞膜透過性が高い出芽酵母を用いたレポーター遺伝子アッセイを確立し、内分泌かく乱物質を高感度に検出可能であることを報告している。そこで本試験では、プロゲステロン受容体(PR)を評価するレポーター遺伝子アッセイを用いてプラスチック含有物であるビスフェノールA及びビスフェノール関連化合物を評価した。
【方法】PRを発現している高透過性出芽酵母を被験物質存在下で24時間培養した。その後、レポータータンパク質であるβ-ガラクトシダーゼを出芽酵母から溶出させ、酵素活性を測定した。また被験物質の出芽酵母に対する毒性影響をβ-ガラクトシダーゼを恒常的に発現している出芽酵母を用いて評価した。また比較対照として、プロゲステロンに応答するレポータープラスミドを導入したヒト乳がん細胞株MCF-7に被験物質を24時間曝露させた。
【結果】ビスフェノールAはプロゲステロンによるレポーター活性の上昇を濃度依存的に減少させた。コントロール出芽酵母株を用いた試験においてビスフェノールAはβ-ガラクトシダーゼ活性に影響を及ぼさなかったことから、レポーター活性の減少は出芽酵母に対する毒性影響によるものではないと判断した。またビスフェノール関連化合物にもPRの評価系においてレポーター活性を濃度依存的に減少させるものがいくつか認められた。これらの作用はMCF-7細胞を用いた評価系においても認められた。現在、ビスフェノールAのPRアンタゴニスト活性が生体に及ぼす影響について検討している。