日本毒性学会学術年会
第48回日本毒性学会学術年会
セッションID: P-36E
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ポスターセッション
微小粒子状物質(PM2.5)曝露による虚血性炎症の亢進と脳梗塞予後の増悪
*田中 美樹大黒 亜美鍋谷 悠奥田 知明伊藤 康一石原 康宏
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抄録

【背景】微小粒子状物質(PM2.5)の脳神経系への影響が近年新たに示されつつある。PM2.5に曝露された人では脳梗塞の予後が悪化し,死亡率が増加するとの疫学研究が複数報告された。しかし,そのメカニズムは不明であり,環境基準値の検討のため毒性学的見地からのメカニズム解明が急務である。本研究では,実験的脳虚血モデルマウスを用いてPM2.5曝露による脳梗塞予後への影響を調べた。

【方法】PM2.5としてNIES CRM No.28(CRM)を用いた。8-12週齢の雄性ICRマウスにCRM(100 μg/mouse/day, diluted in saline)を7日間鼻腔内投与し,Photothrombosisにより脳虚血を誘導した。運動機能測定のためRotarod testを実施した。CRMによる炎症惹起作用を調べるため,マウス骨髄由来マクロファージ(BMM)にCRMを処置し,Real-time PCRにより炎症関連因子の発現を解析した。

【結果と考察】CRM曝露マウスは脳虚血後に運動機能が悪化し,梗塞巣体積が増大し,さらに死亡率が上昇するなど,脳梗塞の予後が顕著に増悪した。BMMにCRMを6時間処置するとTNFαとCOX2の発現が大きく上昇したことから,CRM誘発性の炎症が予後悪化の一因と考えられる。芳香族炭化水素受容体(AHR)の阻害薬(CH223191, 1 μM)をBMMに前処置すると,CRM依存的なTNFαとCOX2の発現が有意に低下した。したがって,炎症誘発にはAHRリガンドである多環芳香族炭化水素(PAHs)が関与すると考えられる。有機溶媒を用いてPAHsを抽出除去したCRMコアをマウスに曝露したところ,興味深いことに虚血後の運動機能悪化が大きく抑制された。以上の結果から,CRMに付着しているPAHsを介した炎症が脳梗塞の予後悪化を引き起こすことが示唆された。

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