感染症の治療は母親と胎児両者の健康のために重要であり、感染症治療薬は妊娠中にもよく使用される。多くの妊婦がB群溶血性連鎖球菌(GBS)感染症や前期破水後の子宮内感染の予防や治療、帝王切開前の感染予防の目的で抗菌薬を投与される。また、妊娠中にも非妊娠時と同様に尿路感染症や上気道感染症等の治療が必要になることがある。
胎児への影響が懸念されるため、妊婦は伝統的に新薬やワクチンの臨床試験から除外されてきた。多くの感染症治療薬の妊娠中使用に関する大規模な研究は行われていないが、抗生物質の中でもペニシリンやセファロスポリン、マクロライド系は胎児への影響の懸念をあまり持たれず長い間使用されてきている。多くのワクチンに関しても妊娠中の使用に関する情報は少ないが不活化ワクチンは胎児に悪影響を及ぼさないと考えられる。特にインフルエンザワクチンは妊娠中の使用により母親自身の感染を防ぐとともに受動免疫を通じて出生後の乳児を保護することが複数の研究で示されており、妊娠中にも接種が行われる。
また、抗菌薬耐性の問題や新興感染症の治療や予防のため、妊娠中の安全性や有効性に関する既存の情報がないまま、未評価の薬剤の使用を余儀なくされることもある。
本発表では、妊娠中および授乳中の感染症治療薬およびワクチン使用に関する疫学研究報告や診療ガイドライン等を参照し、臨床の現場で実際にどのように実践されているかを紹介する。