2019年末よりSARS-CoV-2の世界的な流行に伴い、各国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患する患者及び死亡者数の急激な増加が認められ、社会生活・経済活動も移動制限などの措置により大きな影響を受けている。このような状況下において、新型コロナウイルス感染に対抗する手段として、感染予防を目的としたワクチン及びCOVID-19に対する治療薬の開発が急務である。現在、COVID-19に対する治療薬については、抗ウイルス作用及び合併症への効果を期待した低分子又は抗体薬の開発が進められているが、承認済みの薬剤は少なく、開発中の有効性が期待できる医薬品候補物について、迅速な臨床試験の開始及び承認審査が求められている。COVID-19に対する治療薬の開発は、有効性を中心とした限られた臨床試験が非常に短期間で実施され、臨床試験から得られるヒトの安全性に関する情報は極めて限られる。また、初回承認申請時において、成人のみならず小児及び妊婦等、広範囲なCOVID-19患者への投与も考慮する必要がある。このような開発条件では、通常の医薬品開発と比較して、ヒトへの安全性を考察するにあたり、非臨床安全性試験成績の重みが高いと考える。また、ICH-M3等で示されている非臨床安全性試験の実施時期についても、短期の開発期間に応じて、承認申請時に必要とされる非臨床試験をより柔軟かつ迅速に実施する必要である。本発表では、COVID-19に対する治療薬を開発するにあたり、①臨床試験又は承認申請時に必要とされる非臨床試験項目、②非臨床試験の実施時期に関する考慮事項、③全身毒性、遺伝毒性及び生殖発生毒性評価等について、審査側が特に重要としている事項を中心に報告する。