日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: O2-02
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一般演題 口演 1
メチル水銀曝露はラット足底部に末梢および中枢神経傷害を介した神経障害性疼痛を引き起こす
*藤村 成剛臼杵 扶佐子中村 篤
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抄録

メチル水銀(MeHg)は、人体に深刻な神経機能障害を引き起こすことが知られている。本研究では、MeHg曝露ラットを用いてMeHgを介した神経障害性疼痛の発生を確認し、その病態生理学的なメカニズムを特定した。ラットに MeHg(20 ppm)を3週間飲水投与し、行動学的解析を行った結果、MeHg中毒ラットは無処置ラットと比較して機械的刺激に対する痛覚閾値が足底部において低下していることが明らかになった。次に本ラットについて病理学的な解析を行った結果、神経障害性疼痛の発症に関与する後根神経と脊髄を含む一次求心性神経系、および下行性疼痛抑制経路の起支点である視床に神経学的損傷が観察された。また、MeHg曝露ラットの脊髄後角に活性化ミクログリアが蓄積し、炎症性サイトカインと神経細胞活性化の指標であるリン酸化CREBが増加していた。このことから脊髄後角神経の活性化は、蓄積したミクログリアによって産生される炎症性サイトカインによって生じていると考えられた。さらに、大脳皮質の体性感覚皮質領域の解析によって、興奮性シナプス形成の重要な因子であるトロンボスポンジン-1、さらには前シナプスおよび後シナプス後マーカーの発現増加が確認された。これらの結果は、体性感覚皮質に新しい皮質回路が再配線されていることを示唆している。結論として、MeHg曝露による炎症性ミクログリアを介した脊髄後角神経の活性化は、体性感覚皮質の再配線を誘発し、神経障害性疼痛の発症を引き起こしている可能性が示された。

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