主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
我々は、神経回路の修復、特に軸索の再伸長がアルツハイマー病(AD)の記憶障害改善に極めて重要であると考え、そのような活性を和漢薬から見出しADの新しい治療薬として開発することを目指している。山薬(Dioscorea japonicaまたはD. batatasの根茎)の成分として知られるdiosgeninに着目し、培養神経細胞においてAβで萎縮した軸索を再伸長させることや、ADモデルマウス(5XFAD)の記憶障害を回復させることを見出してきた。しかし、5XFADマウス脳内で実際にdiosgeninが軸索萎縮を修復することを示すエビデンスはなかったため、その解明を目指した。海馬から前頭前野に投射する軸索をトレーサーにより可視化し、diosgenin投与によって軸索が再伸長することを明らかにした。軸索伸長神経細胞で発現増加する遺伝子を、レーザーマイクロダイセクションとDNAアレイで同定し2分子(SPARC、Gal-1)に着目した。それぞれを5XFADマウスの海馬神経細胞に過剰発現させると、記憶障害が改善し、軸索の再伸長も促進された。またSPARC、Gal-1それぞれのカウンターパートとなる分子を同定し、いったん萎縮した軸索が再び方向性をもって伸長するメカニズムを明らかにした。 ヒトでのdiosgeninの有効性を検証するためには、化合物よりも山薬エキスでの臨床研究が現実的である。健常人を被験者としランダムに2群に分け、プラセボまたはdiosgenin高濃度山薬エキスを12週間服用する二重盲検試験を行った。Diosgenin高濃度山薬エキス服用群では、プラセボ群と比較して有意に認知機能が向上した。有害事象は見られなかった。さらに、軽度認知障害および軽度アルツハイマー病を被験者とした特定臨床研究を実施し、diosgenin高濃度山薬エキス服用群の一定の効果を検出した。