主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
エタノールはアルコールとして多くの文化で広く摂取されている依存性のある化学物質である。特に、エタノールは脳に対して毒性をもち、様々な神経障害を引き起こす事が知られている。これまでの研究から、エタノールは神経細胞に直接毒性を示すほか、ミクログリアやアストロサイトを介した間接毒性を示すことも知られている。血管内皮細胞は血液中のエタノールと直に接していることから、エタノールの神経毒性を仲介する働きがあると考えられている。しかし、過剰なエタノールの摂取が脳の血管構造に及ぼす影響については明らかではない。そこで本研究では、成体マウスにおける過剰なエタノール摂取が脳の血管構造に与える影響を明らかにし、その作用を制御する血管調節分子の同定を試みた。 ICRマウスに2 g/kg体重のエタノール、又はコントロールとしての生理食塩水を4日間投与し、投与終了2日後の大脳を解析した。免疫染色の結果、大脳皮質の血管構造に変化が認められ、エタノール投与後のマウスでは顕著な血管の蛇行がみられた。また、大脳皮質の上層部で血管とアストロサイトの相互作用の低下が観察された。この血管のリモデリングを制御する因子のスクリーニングを行ったところ、VEGFファミリーの中でもVEGF-Aの発現が特異的に減少していることがわかった。 以上の結果より、過剰なエタノール摂取は大脳皮質内のVEGF-Aの発現低下を介して血管のリモデリングを引き起こす事が示唆された。エタノールによる血管の構造的な変化は、血管の局在と酸素や栄養の供給を変化させることで神経細胞に対して毒性を発揮する可能性が考えられる。