日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: P1-006E
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優秀研究発表賞 応募演題 口演 1
PI3K–Aktシグナリングへ作用する環境化学物質探索とその評価
*森本 睦堂前 直上原 孝
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抄録

生活環境や食生活を介して曝露される化学物質は無数に存在しているが,個々の細胞毒性に関する評価はあるものの,低用量での作用メカニズムや生理的役割についての詳細はほとんど不明である.これまでに,我々はタバコ煙や排気ガスに含まれるメチルビニルケトン(MVK)に着目して解析を行ってきた.特に細胞内の恒常性維持に重要なホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)–Aktシグナリングへの影響について解析し,MVKがPI3K–Aktシグナリングを負に制御することが分かった.そこで,MVKによるPI3K–Aktシグナリングへの詳細な作用機構を検討した.さらに,構造類似性を持つ環境化学物質による作用に関しても同様に解析した.

まず,MVKの作用機構を明らかにするため,LC-MS/MSや共免疫沈降法を用いた解析を行ったところ,MVKはPI3K p85サブユニットのCys656に共有結合することで,受容体型チロシンキナーゼである上皮増殖因子(EGF)受容体との結合を阻害することが分かった.続いて,MVKの生理的役割を明らかにするため,PI3Kが関与するオートファジーへの影響について解析した.免疫染色を用いて成熟オートファゴソームマーカーであるLC3パンクタ数を観察したところ,MVKはEGFにより減少したLC3パンクタ数を回復させた.このことから,MVKはEGFによるオートファジー抑制作用を打ち消すことが分かった.さらに,MVKと一定の構造類似性を示す23種の環境化学物質を選定し,それぞれの化学物質によるPI3K–Aktシグナリングへの影響を解析したところ,MVKの構造類似性に相関してAktリン酸化を抑制する傾向が認められた.

以上より,MVKによるPI3Kへの作用がオートファジーなどに連関したシグナルを調節すること,MVKと高い類似性を示す環境中化学物質も同様の機能を有する可能性が示された.

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