主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
【背景】TCDDは、Dioxin類の中でも特に難分解性で生体蓄積性が高いことから慢性毒性が懸念されているが、わずかに尿中に排泄されることが報告されている。このことから哺乳動物にもTCDDの代謝機構が存在する可能性が示唆されるが、その詳細ついては全く不明なままである。このような背景のもと我々は、甲状腺ホルモン(TH)がTCDDの尿中排泄を促進することを新たに見出したので報告する。さらに本研究では、THによるTCDDの尿中排泄促進効果に加え、各組織への分布に及ぼす影響とその排泄促進機構についての解明も試みた。
【方法】雄性のddYマウス、C57BL/6Jマウス、TH受容体αまたはβ欠損(TRαKO、TRβKO)マウスに3H標識2,3,7,8-Tetrachroldibenzo-p-dioxin([3H]TCDD)を腹腔内投与し、TCDD曝露モデルを作成した。投与後8日目から、Thyroxine(T4)または3,3',5-Triiodo-L-thyronine(T3)を連日8日間皮下投与した。尿または糞中へのTCDD排泄量および各組織への分布は[3H]放射活性を指標に評価した。
【結果】ddYマウスとC57BL/6Jマウス、いずれの種においても、T4またはT3投与により[3H]TCDDの糞中排泄量に有意な変化は認められなかったが、尿中排泄量が有意に増加すると共に、TCDDの主要蓄積臓器である肝臓への蓄積が有意に減少した。更に[3H]TCDDを曝露したTRαKOまたはTRβKOマウスにT3を投与したところ、TRαKOマウスでは [3H]TCDD尿中排泄促進と肝臓への蓄積低下が認められたが、TRβKOマウスではその作用が認められなくなった。
【結論】以上より、マウスにおいてTCDDを尿中に排泄する機構の存在が確認されるとともに、その機構はTRβによって制御されている可能性が示唆された。