主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
【目的】ナノマテリアル(NM)は既に、日常用品や医療用品にも広く使用されることから、老若男女を問わず、ヒトへの持続的な曝露は避けえない。一方でサイズの微小化に伴い、予想外の生体影響を引き起こし得ることが懸念されており、とりわけ、化学物質曝露に対し脆弱な妊娠期における安全性情報の収集が求められている。本観点から、これまでに我々は、粒子径10 nmの銀ナノ粒子(nAg10)が胎盤細胞の合胞体化を抑制し得ることを明らかとしてきた(第49回年会にて発表)。しかし、そのメカニズムについては未だ情報に乏しく、安全なNMの開発につながる情報の集積が不可欠である。そこで本研究では、胎盤合胞体化の進行にエピジェネティックな制御が関与するという報告を踏まえ、nAg10がエピジェネティックな変化を介して合胞体化の進行を抑制する可能性について検討した。
【方法・結果・考察】本検討では、エピジェネティックな制御機構の中でも、ヒストンアセチル化への影響に着目した。まず、nAg10がヒストン脱アセチル化酵素であるHDAC1とHDAC2の活性に与える影響をHDAC活性アッセイにより解析した。その結果、nAg10がHDAC1、HDAC2の活性を低下し得ることが明らかとなった。次に、nAg10を作用させたヒト絨毛癌細胞株BeWoを用い、HDAC1の発現量を評価した。しかし、合胞体化の誘導試薬であるforskolinを添加した群と比較し、nAg10とforskolinを共処置した群においては、有意な発現変動は認められなかった。そこで現在、HDAC2の発現量を評価すると共に、各酵素の細胞内における活性におよぼす影響について評価している。今後は、nAg10曝露による合胞体化の抑制とHDACの活性変動との連関について解析することで、NM曝露に起因した合胞体化抑制のメカニズム解明につながることを期待する。