主催: 日本毒性学会
会議名: 第50回日本毒性学会学術年会
開催日: 2023/06/19 - 2023/06/21
化学物質の内分泌系に及ぼす影響を評価する一環として、近年、甲状腺機能への影響をみるためのガイドライン改正が行われている。例えばOECD 408にはT3、T4、TSHの測定が導入された(2018)。今回、農林水産消費安全技術センターのHPに農薬抄録が開示されている約290種の上市農薬を対象に、甲状腺に対する安全性評価の実態を農薬抄録及び食品安全委員会の農薬評価書から調査・解析した。
各農薬で実施されたマウス、ラット、イヌの亜急性、慢性・発がん性試験等で得られた甲状腺関連の検査(重量測定、病理組織学的検査、ホルモン測定等)結果を調査し、甲状腺に対する影響を解析した。調査した農薬の約3割で何らかの甲状腺への影響(甲状腺関連ホルモン変動、重量増加、濾胞/濾胞上皮の非腫瘍性/腫瘍性病変、C細胞への影響)が認められた。濾胞/濾胞上皮への影響を示した約80種のうち、約8割で肝重量増加や小葉中心性肝細胞肥大等の変化がみられ、甲状腺への影響の背景に肝薬物代謝酵素誘導があることが示唆された。実際、このうち約6割でUDPGT活性の増加等によって酵素誘導が確認されていた。一方、甲状腺の濾胞/濾胞上皮への直接的影響として、TPO阻害や脱ヨード酵素阻害等がみられた事例もごく少数ながら認められた。ただ、濾胞/濾胞上皮への影響がみられた農薬の1割以上では変化について何ら考察がなされていなかった。甲状腺関連ホルモン(T3、T4、TSH)測定が実施された約60種のうち約8割で変動がみられ、その9割以上で肝薬物代謝酵素誘導が認められた、あるいは示唆された。
以上、農薬抄録及び農薬評価書に掲載された情報の調査・解析から、調査した上市農薬の約3割で各種毒性試験において何らかの甲状腺への影響がみられた。うち甲状腺に直接的影響を及ぼした農薬は少数であった一方、肝薬物代謝酵素誘導に伴う二次的影響によるものが多数を占めた。