日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: S17-1
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シンポジウム17: ゲノム不安定性をみる~遺伝毒性研究のホットトピック~
DNAにトラップされたタンパク質が引き起こすゲノム毒性とその関連疾患
*津田 雅貴清水 直登笹沼 博之武田 俊一井出 博
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抄録

これまで行われてきた研究から、DNA末端にトラップされたタンパク質が引き起こすゲノム毒性の発現機構および発がん機構が明らかになってきた。特に、我々はこのタイプのゲノム損傷の除去効率の低下が乳がんなどの一部の病気の発症に、重要な役割があることを見出してきた。BRCA1遺伝子において、生殖細胞系列変異を有する女性は、乳がんや卵巣がんの発症率が高い。一方で、エストロゲンがエストロゲン受容体(ER)に結合すると、トポイソメラーゼ2(TOP2)により一過性にDNA二本鎖切断(DSB)が誘発され、遺伝子転写が制御されることが知られている。TOP2は、一過性にDSBであるTOP2-DNA複合体(TOP2cc)を生成し、TOP2がDSBの5′末端に共有結合することで絡み合ったDNAを解消する。TOP2は、しばしばその触媒作用を失敗し、TOP2ccを形成したままとなる。我々は、BRCA1がTOP2ccの除去を促進することを見いだした。従って、BRCA1は、エストロゲンによって誘発されるこの病的なTOP2ccsの除去に重要な役割を担っている。この結果は、エストロゲンによって誘導されたTOP2ccは、BRCA1が細胞周期を通して除去することで、腫瘍形成を抑制している可能性を示唆する。さらに、我々は、TOP1ccの除去機構に関しても解析を行ってきた。その結果、TOP1ccがプロテアソームで分解されて架橋ペプチドになり、その後、TOP1cc由来のペプチドをチロシルDNAホスホジエステラーゼ1(TDP1)がDNAから除去するという2段階の経路で修復されることを明らかにした。本講演では、トポイソメラーゼに着目したゲノム毒性の誘発機構について議論したい。

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