日本毒性学会学術年会
第50回日本毒性学会学術年会
セッションID: SL1
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特別講演
睡眠の謎に挑む:『眠気』の正体を求めて
*柳沢 正史
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抄録

睡眠覚醒は中枢神経系を持つ動物種に普遍的な現象であるが、その機能と制御メカニズムは、いまだ謎に包まれている。覚醒系を司る神経ペプチド「オレキシン」の発見をひとつの契機として新しい睡眠学が展開され、近年では睡眠覚醒のスイッチングを実行する神経回路や伝達物質が解明されつつある。2014年には、内因性覚醒系を特異的に抑える新しいタイプの不眠症治療薬として、オレキシン受容体拮抗薬が上市された。また、覚醒障害ナルコレプシーの根本病因がオレキシンの欠乏であることが判明しており、オレキシン受容体作動薬はナルコレプシーの病因治療薬、さらには種々の原因による過剰な眠気を抑制する医薬となることが期待されている。  

一方、睡眠覚醒調節の根本的な原理、つまり「眠気」(睡眠圧)の脳内での実体とはいったい何なのか、またそもそもなぜ睡眠が必要なのか等、睡眠学の基本課題は全く明らかになっていない。私たちはこのブラックボックスの本質に迫るべく、ランダムな突然変異を誘発したマウスを8,000匹以上作成し、脳波測定により睡眠覚醒異常を示す少数のマウスを選別して原因遺伝子変異を同定するという探索的な研究を行なってきた。このフォワード・ジェネティクス研究の進展により、睡眠覚醒制御メカニズムの中核を担うと考えられる複数の遺伝子の同定に成功し、現在その機能解析を進めている。フォワード・ジェネティクスによって同定されたSleepy変異マウスと断眠マウスの解析から、シナプス蛋白質の累積的リン酸化状態が睡眠圧の本態の一部である可能性が提示され、LKB1-SIK3-HDAC4/5が、睡眠圧を表現する分子パスウェイの一部であることが示された。本講演では、筑波大学WPI-IIISの私どもの研究室における睡眠覚醒の謎への探索的アプローチを紹介する。

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