主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
【目的】母体血中Cd濃度と早期早産にエコチル調査において関連性が見出された。胎盤は細胞性栄養膜細胞が絨毛外性栄養膜細胞(EVT)や合胞体性栄養膜細胞(ST)に分化し、EVTが母体側に遊走・浸潤することで形成される。その過程が不完全であると妊娠高血圧症候群を発症し、早期早産につながると考えられる。これまでの研究より、CdがEVTへの分化をとくに阻害するとともに、EVTの遊走能および浸潤能を低下させること、また、Cdの曝露期間が長いほど低濃度でもEVT機能障害が見られることを明らかにした。そこで、本研究では、CdによるEVT機能阻害の詳細な分子メカニズムの解明を目指した。
【方法】EVT様の細胞株HTR-8/SVneoをCd(0~400 nM)存在下で2、8、32日間培養した。遊走および浸潤に関わるタンパク質の発現量をウェスタンブロッティングにより評価した。また、Total RNAを抽出し、RNA-seq解析を行った。
【結果・考察】遊走および浸潤には、PI3K/Aktシグナル伝達経路などいくつかの経路が関わっていることが知られている。ウェスタンブロッティングの結果、Cd処理した細胞では、pAKT量が減少しており、同じ濃度で処理したものでは処理期間が長い方がより減少していた。またRNA-seqデータから、Cd 100 nMで32日間処理した細胞では2日間処理に比べてCCN2の発現が低いことがわかった。CCN2は結合組織成長因子(CTGF)とも呼ばれる分泌型細胞外マトリックス関連タンパク質であり、CCN2がAKTを活性化するという報告もある。これらのことから、CdはPI3K/Aktシグナル伝達経路の阻害を介してEVT遊走や浸潤に影響を与えている可能性が考えられる。現在、その他の経路への影響評価や、RNA-seqデータのさらなる解析を進めている。