主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
近年、農薬を含む多用途の化学物質の発達期曝露による次世代の脳神経系発達への影響が懸念されている。また、農薬の胎児期、幼若期における発達神経系へのリスク評価については、2019年に農林水産省より「神経毒性や繁殖毒性等の他の試験の結果から、動物に投与に関連する神経学的影響が認められ、発達期の神経毒性を確認する必要がある場合は発達神経毒性試験成績の提出を要する」との通知が出され、発達神経毒性(DNT)評価の必要性が高まっている。そこで、DNT評価が必要となる毒性所見を検討するため、農薬12剤(ネオニコチノイド系、有機リン系、カーバメート系、ピレスロイド系等)を選択し、各農薬のDNT試験の結果と他の毒性試験(繁殖、発生、亜急性、急性神経)の毒性所見との関連性について精査した。各農薬の毒性試験結果に関する情報は、EPA, EFSA及び食品安全委員会の各農薬評価書より入手した。
調査した12剤のうち、振戦、自発運動量低下等の急性神経毒性所見は11剤で確認された。DNT試験では児動物の神経行動学的所見(聴覚驚愕反応低下、運動能低下、遊泳発達遅延等)が6剤、児動物脳への影響(重量、形態計測)が3剤でみられたが、神経病理組織学的所見はいずれにも認められなかった。発生毒性試験では3剤で催奇形作用は認められたが、いずれも神経系の形態異常ではなかった。繁殖毒性試験では児動物の生存率低下が6剤でみられ、親動物では甲状腺重量の増加が2剤、そのうち1剤ではろ胞上皮細胞肥大も認められた。これらの甲状腺所見は亜急性毒性試験でも3剤に認められた。今回調査した12剤においてDNT 所見と他の毒性試験での所見の間には明確な関連性はなく、各農薬の作用機構による関連性もみられなかった。引き続き調査対象の農薬を増やしてDNTと関連性のある毒性所見の検討が必要であると考える。