主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
法令準拠型の規制の順守では、産業現場で日常的に使用されている数万に上る化学物質をカバーするには限界があることや、労働災害の多くは規制対象物質以外の物質により発生しており、小規模事業場での災害発生が多いこと、物質の危険性・有害性に関する情報伝達制度が整備されてこなかったこと等の背景から、事業者が自ら対策を選択する化学物質の自律的な管理として、次の施策が進められている。
(1)化学物質の危険性・有害性に関する情報伝達を強化するために、国によるGHS分類は毎年50~100物質のペースで進め、順次ラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントが義務化される。既に分類され、まだラベル表示・SDS交付の義務化がされていない物質も、順次義務化される。
(2)国が定めた管理基準に基づいたリスクアセスメントの実施と対策を進めるために、GHS分類済み危険有害物について、事業者が危険性・有害性に関する情報などに基づいて自ら選択するばく露防止手段を講じることにより、労働者が吸入する有害物質の濃度を国が示す基準以下とすること、又は同基準が示されていない物質についてはなるべく低くすることが義務付けられた。さらに、皮膚から吸収される物質や皮膚につくと薬傷などを引き起こす物質も管理の対象となった。
(3)化学物質の自律的な管理のための実施体制を確立するために、化学物質を使う全ての事業場に化学物質管理者の選任が義務づけられ、その役割は、危険性・有害性の確認、リスクアセスメントの実施、ばく露防止対策、必要な記録保存、労働者の教育、労働災害対応と多岐にわたる。保護具着用管理責任者は、ばく露防止対策として保護具を使う化学物質取扱い事業場には選任義務がある。化学物質管理の教育は、職長や一般作業者にも拡大された。
これらの施策をすべての事業場で実現するためには、化学物質のリテラシーの高い人材のニーズが非常に高く、薬剤師もその一助を担えるものと考える。