主催: 日本毒性学会
会議名: 第51回日本毒性学会学術年会
開催日: 2024/07/03 - 2024/07/05
タンパク質は遺伝子の最終産物であり、様々な機能を持つ分子である。これらの変化は多様な生命現象を引き起こす一方で多くの疾患の原因にもなっている。そのため生体内で起こる現象を理解するためにタンパク質を計測することは必須である。タンパク質発現解析となるとプロテオーム解析の出番となるが、細胞、組織内のすべてのタンパク質を簡便に観測することは困難であることからトランスクリプトーム解析によって導き出された細胞、組織内に含まれるほぼすべてのmRNAの発現量からタンパク質の発現量を予測することが頻繁に行われている。しかしながら、近年のトランスオミクス解析によってタンパク質とmRNAの発現量の相関は高いものではなく、細胞の種類によっては全く相関しないこともある(Kawashima Y. et al., J. Proteome Res., 18, 2019)。このことを踏まえるとやはりタンパク質発現量はタンパク質そのものを計測しなければならない。そこで当研究室では分画なしの1回の分析で細胞内に発現している全タンパク質を観測できる分析システムの開発を2018年から開始した。我々はMS1で解析対象とする質量レンジの全領域を四重極質量フィルターで細かく区切り連続的にMS/MSを取得するData Independent Acquisition (DIA)に着目して、2022年にHEK293細胞消化物から10,000タンパク質検出に成功した(Kawashima Y. et al., J. Proteome Res., 21, 2022)。さらに最新鋭の質量分析計と60cmのロングカラムを組合せることでHEK293細胞に含まれるほぼすべてのタンパク質と考えられる13,000タンパク質の検出に成功した。この超深度プロテオーム解析システムによって検出された超低発現タンパク質には様々な生命現象の起点となる転写因子が豊富含まれており、薬剤や代謝物が細胞や組織に与える効果に対するマスター因子の探索に本システムが大いに役に立つと考えている。