繊維機械学会誌
Online ISSN : 1880-1994
Print ISSN : 0371-0580
ISSN-L : 0371-0580
繊維および繊維高分子材料の無定形領域における分子運動に原因する力学的損失正接(tanδ)-温度曲線の解析
(第4報) tanδ-温度曲線からの無定形領域の微細構造分布の評価
真鍋 征一上出 健二中山 暢三小林 茂子
著者情報
ジャーナル フリー

1977 年 30 巻 5 号 p. T85-T97

詳細
抄録

目的 tanδ-温度 (T) 曲線より高分子固体の無定形領域の微細構造の詳細を評価する方法を確立する.そのために, (1) 系を構成する成分のtanδ値より系のtanδ値を計算する. (2) 結晶性高分子のtanδ-T曲線を説明し得る微細構造モデルを提案する. (3) tanδ-T曲線の解析方法を確立する. (4) 本解析方法を導く際に採用する仮定の妥当性を実験で確認する.
成果 試料中のある微小体積内 (約100Å立方) においては分子鎖の凝集状態は均一であるとみなした.この微小体積を基本単位 (要素) とした.試料内におけるこの要素の分布を表現するために,新しく充填度分布関数F (n) を導入した.この微細構造のモデルと, 既報の数値計算の結果を利用し, 上記 (1) ~ (4) の目的に対し以下の結果を得た. (1) tanδ値については弾性率分率の加成性が成立した. (2) 上記の微細構造モデルを基礎に結晶性高分子のCa吸収のtanδ-T曲線の半価幅を説明できた. (3) tanδ-T曲線および見掛けの活性化エネルギの値ΔHaを測定し, これらの実測データよりF (n) を算出する解析方法を確立した. (4) tanδ-T曲線の測定過程中に生じ得る微細構造の変化は、ほとんど無視できた. (5) 実測のtanδ-T曲線よりF (n) を定め, このF (n) とWLF式とから計算されたΔHaのT依存性と, 実測のΔHaのT依存性との対応関係を示した. (6) 幅広いF (n) を持つ試料では温度-時間換算則は成立しなかった. (7) 上記 (5), (6) の事実より, 試料内部にΔHaの異なった要素が混在するという仮定の妥当性が明らかになった.

著者関連情報
© 一般社団法人日本繊維機械学会
次の記事
feedback
Top