トランスパーソナル心理学/精神医学
Online ISSN : 2434-463X
Print ISSN : 1345-4501
G.R.A.C.E. におけるスピリチュアルケア
中川 吉晴
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2017 年 16 巻 1 号 p. 125-144

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抄録

本研究ノートは、ジョアン・ハリファックス老師が慈悲の実践として創始した G.R.A.C.E. プログラムについて、文献およびワークショップ研修をもとに、その理論的側面と実践内容を詳しく考察したものである。 G.R.A.C.E. は、仏教のアプローチと科学的知見(神経科 学と社会心理学)を組み合わせてつくられたプログラムであり、仏教を基盤とする非宗派的なスピリチュアルケアを代表するものの一つであり、医療者やケア提供者の燃え尽きを防止するものとしても活用されている。このプログラムは、本学会の分科会メンバー(村川治彦氏、永澤哲氏、小田まゆみ氏、中川吉晴)が中心となって日本に招来したものである。本研究ノート では、まず医療人類学者であったハリファックス老師 の略歴と G.R.A.C.E. の成立過程について紹介したのち、 G.R.A.C.E. の理論的基盤について考察した。そこでは、 慈悲の構成要因として、注意、感情、認知、身体の領域があげられ、それらは3つの基軸(注意と感情の軸、意図と洞察の軸、身体化とかかわりの軸)に体系化される。それにつづけて、G.R.A.C.E. の5つの段階、すなわち「注意を集める」、「意図を思い起こす」、「自分に波長を合わせ、そして他者に波長を合わせる」、「考慮する」、「かかわる、行なう、終える」について詳しく とりあげた。最後に、G.R.A.C.E. の取り組みが決して行為レベルに限られるものではなく、行為を超えた存在の深み(限りない広大なもの)に根ざすものであり、 この点に仏教的世界観が反映されていることを論じた。 G.R.A.C.E. において慈悲的なケアリングは「行為としてのケア」と「存在としてのケア」の非二元的統一のなかで生起するものなのである。

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© 2017 日本トランスパーソナル心理学・精神医学会
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